某月某日:ナユタ記す
それからしばらくの間は、拙者ども『オーダイン』のみならず、全ての調査隊が、十階より下への道を捜したのだが、残念ながら徒労に終わった。
拙者としては、鍛錬を積めたゆえに文句はないが、捜し人がいる者、未知を求める者、命令を受けている者は、皆それぞれに焦燥していた。そのような雰囲気は駐屯地全体に広がり、苛立ち紛れの喧嘩も頻発するようになった。
だから、その一報がもたらされたとき、行き場をなくしていた力が暴発するように、皆が樹海へなだれ込んだことは、無理もあるまい。
我々『オーダイン』は、ノクト殿が少なくとも見た目では大きく構えているためか、急くことはないと全員が判断し、狂乱が治まるまで待っていたのだ。
……余談だが、全てが終わって帰路に就くときに、ノクト殿に当時のことを聞いたところ、「あのときは出遅れただけだった」という、身も蓋もない裏話を聞くことになったわけだが。
「ええっと、みなさんもすでにご存じかもしれないですが……」
駐屯地の空気が落ち着いた頃に、分隊駐屯所を訪れた我々に、フリーン殿は切り出したものだった。
「十階に確認されていた門扉が突然開放され、新たな通路が発見されたです」
駐屯地が落ち着いたと記したが、これは探索が進んで、冒険者や調査員の探求心や興味心冒険心その他いろいろが満たされたからというわけではなかった。
単純に、大怪我をしてそれどころではなかったからである。
話を聞いた後に薬餌院を覗いた我々は、その戦場さながらの様子に唖然としたものだが――それは別の話だ。
開いた門の奥の調査になだれ込んだ者たちは、がらりと変わった光景を目の当たりにしたそうだ。断片的な話では、見渡す限り氷の世界だとか、夜になると遠くが星空のように見えるとか、フリーン殿曰く、「上がってくる報告はおかしなことが多すぎて眩暈がする」とのことだ。
確かに、拙者からしても奇妙に聞こえる話だ。だが、樹海探索の経験者である、アンシャル殿やフィプト殿によれば、ここが確かに世界時の迷宮ならば、そんなものは大した現象ではない、という話だった。そういうものだろうか。
話を戻そう。生態系もがらりと変わり、未知のものだらけで、フリーン殿たちは徹夜続きだという。言葉に若干の苛立ちが含まれている気がしたのは、そのせいか。
話を戻すと、調査団が調査できたのは、若干広い空間ひとつ程度だったそうだ。なぜなら、調査団本体から組織された一部隊が、謎の生命体と遭遇したからであった。もとより調査主体の編成であった彼らは撤退を余儀なくされたという。そやつは、我々人類の知らなかった未知の存在、人造的な外観の生物であり、圧倒的な力を持っていること以外は何も分からぬとのことだった。
我々に指示されたミッションは、そやつ――行く手を阻む謎の敵を殲滅せよ、という話であった。
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