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フォレストジェイル探索日記
世界樹の王オーダイン


20:常闇ノ樹海に咲く花・4

某月某日:シロカロ記す

 一日で、とは参りませんでしたが、わたし達はどうにか、依頼された数の夜光華を発見することができました。ミューズ女史が手早く薬効の抽出精製を行い、試薬で確認したところ、予想通り、症状に対して顕著な効能を現したとのことです。
「これで、とりあえずは大丈夫というところですか」
 わたしがそうテッシェに話しかけたとき、彼女は妙に嬉しそうでした。わたしが訝しげな顔をすると、照れ笑いのような顔をして、こう答えたのでした。
「やっぱりさ、人殺しより人助けの方がやる方も嬉しいよね」
「同感です」
 わたし達はこれでも本来は『王国』軍所属ですから、その立場に添えば、時には憎くもない人間を殺すということもあるのです。幸い、現在の『王国』は、他国に侵略したりすることはありませんから、無辜の民を手にかけることはまずありませんが、時折、盗賊団討伐のために動員されることもあります。現在のところ、わたしは人を殺したことはありませんが――。
 ところでフリーンさんが仰るには、わたし達の報告で気になった事があったそうです。夜光華を入手する際に、魔物の攻撃で散々な目に遭ったわけですが、その報告が、分隊駐屯所の上層部で、生息する魔物の多様性と凶暴性の問題として取り上げられているいるとか。
「感染症が発生した地域でもあり、当面は立ち入りを禁止するとの決定が下されそうなんです。そうなったら、感染危険地域と、魔物多発地域を迂回する、新規調査ルートを開拓する必要があるです」
 そんなフリーンさんの言葉を聞いて仲間達の下に戻った後、正式に、八階への立入禁止が布令されたのでした。

「……で、本当に、新しい抜け道があるんだろうな? 無駄足はごめんだぞ」
 立ち入り禁止令と同時に布令された、『調査路開拓』人員を求むという話を聞くために、わたし達は分隊駐屯所を訪れていました。
 ノクト殿の詰問に、フリーンさんは頷きました。
「絶対完璧百パーセント、とは言えないです。ですが、今までの報告を元に追調査を行っていた調査団の話と、分析チームの見解では、七階に未発見のルートが存在する可能性が高いとの事です」
 なんでも、七階を調査中の調査団が度々、未分類の魔物を目撃しているとのこと。
その魔物の生態調査によれば、未確認の抜け道が存在する可能性が高いらしいのです。目撃情報は主に北側の外周付近に集中している……つまり、未分類の魔物は、どこかから未確認の抜け道を通って、七階に姿を現している。そして、その抜け道は北側外周部に存在する可能性が高い――そういうことのようです。
「ま、とにかく、行ってみなきゃわからないさね」
 手をこまねいていたところで、先に進めるわけではないのです。ここは、可能性を信じて進んでみるしかないでしょう。

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