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フォレストジェイル探索日記
世界樹の王オーダイン


21:常闇ノ樹海に咲く花・5

某月某日:テッシェ記す

 駐屯所からの依頼で七階を探したら、あるかもしれないと言われていた抜け道は、あっさりと見つかった。下り階段状になっていたその道を抜けた先での磁軸計の反応は、八階より深部を示してる。つまり、抜け道の先が九階(ひょっとしたらそれ以下かもしれないけど)なことは、間違いのないことだと思う。
 アタイ達は、その先の探索を進めると同時に、ある一つの依頼を受けて八階に足を伸ばした。
 八階にいる毒グモを倒すためさ。

 ある調査団員が、八階で毒グモのモンスターに遭遇した。ほとんど全員がモンスターの攻撃で生命を落として、なんとか戻ってきたひとりも、そのモンスターの毒に全身を侵されて、生きている方が不思議な状態に陥っていた。ソイツが昏睡に陥る前に言い残したのが、「モンスターを倒して仲間の仇を取ってくれ」ってモノだったらしい。
 バカバカしいって思ったさ。ソイツがやられたモンスターなんて、アタイ達は何度も出会ってる。毒だって喰らったけど、戦闘後の治療で問題なく復帰してる。ソイツは毒の応急処置法すら知らなかったバカってことさ。女医センセイは「あり得ない毒」なんて言ってるけど、つまり放置して悪化しただけのことさね。まぁおかげで、ソイツみたいなバカが今後現れてもなんとか生命は救えそうな、抗体は作れたみたいだけど。
 あと、『仇』っていうけど、たくさんいる毒グモのどれを倒せば、ソイツは納得するんだろうね。
 ……でも、アタイはその依頼を断れなかった。昔の『任務』でひとりだけ生き残った自分のことを思い起こしたから。生命に別状はなかったけど、それからずっと、アタイは鞭を手にすることができなかった。叶うなら、仲間達を殺したアレ、まさに『怪物』と呼ぶべきアレに復讐したいと望んだ。
 依頼主とアタイはよく似てる。だからアタイは、そいつの自業自得ってところは飲み込んで、依頼を受けることにしたのさ。

 依頼自体は簡単に終わった。お馴染みのクモを殺って、証拠になるモノをちょっと持って帰ればいいことさ。まぁ、殺ったクモが本当にアイツの仲間を殺したヤツかは判らないけど、こればかりはしょうがないさ。
 で、酒場に報告したんだけど、その時、アタイ達は、依頼主が死んだって話を聞いた。
「ううん、正確には……アナタ達が来たときには、すでに虫の息だったの」
 って、店主は言った。
「アナタ達が依頼を受けてくれて……あの後、ベッドの上の彼に、その事を伝えたわ。そしたらね、安心したのかしら……アタシの声も聞こえない筈だから、気のせいなんでしょうけど……ちょっとだけ、笑った気がするの。唇の端を、こう、キュッと上げて」
 依頼主は、自分を倒すような魔物を、アタイ達が倒せるって思ってたんだろうか。いや、そんなことはわかるはずもないか。ただ、自分の意志を継いでくれるヤツらがいたってのがうれしかっただけなのかもしんないね。どっちにしろ、もう死んじゃった人間の気持ちなんか、ちゃんと判るはずもないけどさ。

 さて、本筋の探索の方なんだけど。
 なんとか十階まで降りて(九階は、ちゃんと九階だったわけだ)、その最奥まで到達したアタイ達の目の前には、閉ざされた門がそびえ立っていた。
 それは、どんな手を尽くしても、びくともせず、アタイ達の前を塞ぎ続けてたんだ。

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