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フォレストジェイル探索日記
世界樹の王オーダイン


17:常闇ノ樹海に咲く花・1

某月某日:テッシェ記す

 探索班の話だと、毒蜂達を倒した先、六階(もちろん、地下の、ってこと)は、今までとはがらりと光景が変わった、昼なお暗い闇の樹海らしい。
 しばらく、アタイ達は五階の地図を完成させることに専念していた。単に探索するというだけじゃなくて、その途上に現れる魔物達を倒しながら、新たな階層の新たな魔物に出くわしても簡単にへたばらないように経験を積むわけだ。
 アタイ達、探索班じゃないギルメン達も、素材の採集を主目的として、何度も潜ったものさ。なにしろ資金が足りない。先立つものは何とやらってね。第一階層の採掘場で見つかる白石や輝石は、特にいい値段で売れるんだよね。
 そんなこんなで五階の地図が完成した頃、毒蜂の親玉を倒した奴らは、とうとう、第二階層へと足を向けたのさ。
 前々からの探索経験者の二人――センセーとアンシャルのことだけど――が言うには、この樹海はどちらかというとエトリアの方に生態系が似てるみたいだ。参考までに、っていうことで、エトリア樹海の記録を広げてたけど、さて、第一階層がそうだったからって、第二階層までそう上手くいくかどうか。
 結果だけ言うなら、第二階層も、エトリア樹海の生態系に似ていたらしい。
 けれど、当然ながら違うところもあって、その違うところが大問題だったわけさ。

 探索班は、歩くのがやっとってくらいボロボロになって帰ってきて、薬餌院に叩き込まれた。アタイ達は心配のあまり、取る物もとりあえず見舞いに行ったものさ。
 ……アタイが見舞いなんて想像できない? かもね。でもさ、シロカロちゃんのことは心配だから。他の連中はともかくとして。
 で、結局、何が問題だったのかって?
「まさか、あんなことになるとは……」
と頭を抱えるシロカロちゃんや、他の奴らから聞いたところによると……。
 エトリア樹海の生態系に似ていたのは、間違いなかった。
 ただ、エトリアじゃ、第二階層っていっても下の方の階にしか出てこない奴が、平気で六階を這い回っていたらしい。
 そいつは、『危険な花びら』って呼ばれる、エトリア樹海でもたくさんのギルドを葬り去ってきた強敵だっていう。もっと下の階層にはパワーアップ版が出たらしいけど、さしあたって今の『オーダイン』には、そいつだけでも充分な脅威だってさ。なんでも、花粉をばらまいて眠らせてくるんだって。ああ、そりゃ、眠らされたら、戦うも、逃げるも、出来なくなっちゃうさね。それどころか、エトリアでは第三階層に出たような奴も、一種類だけだけど、しれっと登場しやがったんだって。
「とりあえず、今の探索班では荷が重いですね」と、センセーが溜息を吐いた。
「探索班の編制を見直さなきゃならねぇか……」うむ、とうなったのはノクトだ。
「では、私が外れよう」とは、アンシャルの言い分だ。
 詳しく言えばこういうことだ。
 第二階層の奴らは強敵だけど、眠らされないこと前提で、ノクトのガードがあれば、なんとか戦い抜くことはできるらしい。チャリアちゃんはメディックとして欠かせない。センセーは、術式が強敵との戦いに役立つし、特に『ウーズ』と呼ばれる魔物と戦うときには、氷の術式があれば一発だっていう。シロカロちゃんは前衛として必要だ。
「私の呪術は、まだこの樹海の魔物に相対するには未熟のようでな、まあ、しばらくは最前線を退いて鍛錬するさ」
「じゃあ、代わりに誰が入るのさ?」
 後列で代わりに入れるといったら、レクタかラプシーちゃんだ。でも、レクタはともかくとして、まだ右も左も判らない階層にラプシーちゃんを連れ込むのはさすがに賛成できない。そう思ってたアタイに、ノクトは重々しく問いかけてきたんだ。
「……というわけでだ、テッシェ。てめぇは前衛として探索班に入る気はあるか?」

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