←テキストページに戻る
フォレストジェイル探索日記
世界樹の王オーダイン


16:緑ノ牢獄を突き進め!・11(完)

某月某日:ラプシー記す

 ボクたちにできるのは、探索班のみんなが無事に帰ってくるのを待つことだけだった。
 テッシェおねえさんが、「シロカロちゃんもいるから、そう簡単にくたばったりしないよ」って言ってくれたけど、やっぱり心配なものは心配なんだ。
 だから、みんなが宿に戻ってきたときには、安心してものすごく気が抜けて、しばらく立てなかったくらいだったの。

 無事だったっていっても、探索班のみんなの身体は傷だらけだった。もちろん、チャリアおねえさんが手当てしたんだと思うけど、傷痕が消えるには少し時間がかかる。もしかしたら、残っちゃう傷跡もあるかもしんない。
 一番酷かったのはノクトさんの身体だった。全身傷か痣で覆われてて、何ともない場所を探すのが大変なくらい。ボクがじっと見てるのに気付いたのか、ノクトさんは、ぎろっとボクを睨んだの。
「じろじろ見たところで珍しいもんでもねぇぞ、ガキ」
「素直に『そんなに心配そうに見るな』と言ったらどうかね、パラディンの」
「うるせぇ」
 ノクトさんは、シロカロおねえさんをずっと守ってたって、聞いた。
 今度の戦いの相手の女王蜂は強敵で、隊列に突っ込んで来てダメージを与えてくることもあったみたい。おまけに、護衛の蜂さん――普通の蜂さんよりももっと大きいの――までやってきて、すごく大変だったっていう話。それでも、みんなは蜂さんたちをどうにか倒したの。
 蜂さんがいたところの向こう側には、下へ続く穴があったんだって。
 下の階は、今までの森とはがらっと変わって、昼間でも暗い、鬱蒼とした森だったみたい。
「しばらくは、五階の地図を完成させることに尽力した方がよいですね」
 とシロカロおねえさんはいってた。フィプトせんせいやシャルおにいさんの経験だと、森の様子ががらっと変わると、魔物もがらっと変わって強くなるっていうから、その方がいいのかも。
 それにしても、胸に巣を抱える程におおきな女王蜂をはじめとした、毒蜂……樹海にはまだまだ不思議な生き物がいるみたい。フリーンおねえさんも、今回の毒蜂には驚いたみたいで、
「調査方針を見直す必要があるかも知れませんです……」って言ってた。
 そういえば、こんな話もあったの。
「皆さんの後発隊として五階に入ったギルドからの報告がありまして。えーとですね。
五階でも先遣隊の所持していた品が見つかったそうです」
 でも、ごはんも減ってないし、アイテムとかもそのまんま見つかったんだって。
「状況から判断して……先遣隊の生存は絶望的、です。……今回の毒蜂の事といい、先遣隊の消息といい……そもそもの発端となった、開拓民の謎の消失事件といい……なにもわからない状態なのです……」
 ……この森って何なんだろう。
 他の『世界樹の迷宮』を知っている、フィプトせんせいやシャルおにいさんも、首を傾げてた。
 せんせいたちが言うには、先遣隊のみんなが行方不明なのは、不思議じゃない。未知のところに挑む以上、未知の出来事はあるから。でも、開拓者のみんなが行方不明になるのは、腑に落ちないみたい。森に踏み込んでる最中ならまだ判るけど、安全を確保したはずの駐屯地にいた人も、みんないなくなっちゃってるってことが。それも、血の痕も残ってない――ただ魔物に襲われたってわけじゃないみたいってところが。
 結局、ボクたちは、森について、まだ何もわからないってことなんだ。

NEXT→

←テキストページに戻る