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フォレストジェイル探索日記
世界樹の王オーダイン


12:緑ノ牢獄を突き進め!・7

某月某日:チャリア記す

 駐屯地に帰り着いた、あたし達を、フリーンさんは本当にほっとしたような顔で出迎えてくれました。
「お、お帰りなさいです〜! ご無事でなによりでした……」
 あたし達が持ち帰ったメモを持って奥に引っ込み、たぶん隊長さんとお話ししてたんだと思います。しばらくしてから出てきたフリーンさんの顔は、晴れやかとは言いがたいものでした。
「他のギルドの調査でも、先遣隊の足取りを掴むには至っていません。こんなに完璧な消息不明なんて、信じられない、です……」
 つまり、手がかりは、あたし達の見付けたメモだけ。それも、『闇がくる』なんていう、漠然としたものだけです。行方不明の人達を見付ける助けには、今のところ、なりそうにないです。
「事態は予想以上に深刻です。状況の評価が行われるまで、捜索は……中止です」
 フリーンさんのその言葉に、その場にいたみんなが黙りこくりました。空気が重いです。
 その重さを払うように、フリーンさんが叫びました。
「……で、でもっ! 生存の可能性は、まったく否定されていません! 遺体がなかったっていうことは、まだ生きているかもってことです! その可能性に賭けるです!!」
 まるでフリーンさんの知っている人、いえ、肉親の方が、行方不明の方の中にいるかのような、必死な表情で、フリーンさんは訴え続けます。
「あのメモ……隊長さんは性急な判断は禁物だ、って言ってましたです。でも、それが何かのヒントである可能性は高いと思うです。彼らの遭遇した『何か』――」
 そこまで矢継ぎ早に話したあと、フリーンさんは、は、と口元に手をやり、心を落ち着けるかのように溜息を吐きました。そして、
「……ミッションは完了です。ご無事でよかったです……」
 今にも泣き出しそうに、そう言ったのでした。
「ミッション完了、ですか……」
 とシロカロさんがフリーンさんの言葉を繰り返しました。その顔には、フリーンさんを安心させるような笑みが浮かんでいます。
「フリーン殿。ミッションはここで完了とのことですが……」
 続く言葉は、ノクト様の口から出てきました。
「この先で、連中の手がかりを見付けたときは、いつでも報告しに来て構わねぇんだろう?」
 お二人の言葉を聞いたフリーンさんは、
「もちろん、です!」と晴れやかな笑顔で答えたんです。

 その後、あたし達はタンブリン・バーに顔を出しました。
 酒場づてでのフリーンさんの依頼が完了したことを報告するためです。
 三階までに生息する魔物のデータを集めてほしいという依頼だったんですが、先遣隊の皆さんを捜す合間に必要なデータが集まったんです。
 マスターは、あたし達の無事を、ことのほか喜んでくれました。
 フリーンさんから預かっていたっていう報酬をくれた後、ふと、こんな話をしてくれたんです。
「……フリーンちゃん、依頼を出したはいいけど、ずいぶんと気を揉んでたのよォ?」
「ふむ、我らはさほどに頼りなく見えたかな?」
 とはアンシャルさんです。そう見られた、と本気で思っているわけじゃないみたいで、口元は緩やかに笑ってましたけど。
 マスターも笑いながら首を振りました。
「あらヤダ。そういう意味じゃないのよォ」
 ふと、マスターは真剣みを帯びた顔をしました。
「フリーンちゃんのお兄様っていうのが、開拓団のメンバーだったんですって。だから森の怖さは充分骨身に染みてるんでしょうねぇ……」
 初耳です。みんなそうだったみたいで、誰もが無言になりました。
 あたしやシロカロさんはともかくとして、ノクトさん、フィプト先生、アンシャルさんは、開拓団のメンバーだったお知り合いを捜すも目的だ、って言ってました。だから、フリーンさんのお兄さんの話を聞いて、他人事とは思えなかったんじゃないか、って思います。
 マスターが、しんみりと続けました。
「『死んだ事が証明されない限り生きている可能性がある』って、よく口にしているけど……きっと、本心なのよねぇ……いつも明るいフリーンちゃんにも、いろいろ事情があるのよね……」
 そうでした、フリーンさんは、ミッションの報告に行ったときも、確かにそう言ってました。
 そうか、あの言葉は、先遣隊の皆さんを心配すると同時に、お兄さんの無事を信じる言葉でもあったんですね……。
 樹海は、本当に、いろいろな人のいろいろな思いを呑み込んでしまう……。
 あたしは今更ながら、樹海がちょっと怖くなりました。でも、『オーダイン』を抜ける気はさらさらないです! だって、あたしがいなかったら、誰が樹海の中でみんなの傷を診るっていうんですかっ!?

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