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フォレストジェイル探索日記
世界樹の王オーダイン


11:緑ノ牢獄を突き進め!・6

某月某日:ノクト記す
 メインの探索班が三階に踏み込んだ頃か、おれ達は駐屯所を訪れた。
 酒場づてで受けていた、「三階までに出現する魔物の調査」の途中状況の報告に行っただけなんだが、駐屯所内は妙にざわついてやがる。
 おれ達に気が付いたフリーンが、やけに慌てた口調で話しかけてきた。
「えっと、えーっと! あの、その、落ち着いてくださいです!」
 ……お前が一番落ち着けっつーんだ。
 なんでも緊急事態が発生しやがったらしい。
 三階付近を探索していた先遣隊からの連絡が、途切れちまったそうだ。
 消息が途絶えてから七十二時間、三日が過ぎたらしい。それくらいなら、そいつらの実力次第で、問題なく探索し続けられる期間かもしれねぇ。エトリアでは、冒険者に『樹海で五日間を過ごす』というクエストを課していたことがあったからな。大層嫌われたクエストだが、成し遂げた連中はいくらでもいた。
 だが、軽装備で、食料も充分ではないとしたら、話は別だ。
 駐屯所の連中が断じるとおり、遭難しちまったんだろう。
 以上を踏まえて、おれ達に課せられたオーダーは、三階で連中を捜索すること。だが、現場の状況把握が不十分で、二次被害のリスクが極めて高い。故に、先遣隊の連中の消息に繋がる情報が手に入ったら、その時点で深追いはせずに戻ってこい――とのことだ。

 三階には、恐ろしい気配を放つ魔物がいやがる。
 先遣隊の連中は、そいつらにやられたのかもしれねぇ。
 最初はそんなことを考えたりもしたんだが、何の痕跡も見あたらねぇところが、断定するには早ぇところだ。
 なんにせよ、この階まで行き着いた連中が、ふっつりと消息を絶つのはただ事じゃねぇ。探索自体が初めてのおれでも容易に思い当たることだし、経験者であるアンシャルやフィプトも同じ意見を口にした。
 おれ達とほぼ同時に探索を開始した連中も、その半分が、一階や二階で果てた。樹海を舐めていた者、舐めてはいないが不運だった者、ほんのちょっとの油断が命取りになった者……逆に言えば、三階まで到達した連中は、樹海の最初の洗礼をくぐり抜けたということになる。
 しかも、三階に踏み込むに当たって、軽装で食料も充分に持たずに行った連中。それでも生還する自信と、その裏付けは、充分にあったんだろう。
 それが、消えた。だったら、人智を遙かに超えた何かが関わってやがる。
 そういうのは、充分に考えられることだ。
 おれ達は自分達の探査領域を少しずつ広げながら、先遣隊を探した。
 しかし、一日が過ぎ、二日が過ぎ、三日目になっても、それらしき連中は見つからない。
 連中が消息を絶ってから一週間近くなった。もちろん新たな連絡もない。生存は絶望的かもしれねぇ。
 そう思いつつも、迷宮東側の、細い道を進み、突き当たりに行き着いた、その時だ。
「……ノクト殿」
 不意にしゃがみ込んだシロカロの手に、何かメモのようなものがあった。
 急いで帳面から破り取ったような漉紙に、殴り書きで記してあったものは。

『闇がくる』

 明らかに人間の字。一般の狩人なども素材集めに入っていたエトリアやハイ・ラガードとは違って、このフォレストジェイルの樹海に潜っている人間は、基本的に冒険者だけだ。
「闇、だぁ?」
 さっぱりわからねぇ。
 冒険者として起っておきながら、暗いところが怖いたぁ何事だ――などということをほざくほど、おれは比喩を理解しない人間ていうわけじゃあねぇ。だが、この殴り書きだけじゃ、意味が分からないのも確かだ。漠然とした表現じゃなく、もう少し具体的な言葉を残してほしいもんだが。
 だがまぁ、連中の視点では、本当に『闇』としか見えねぇ何かだったのかもしれん。
 メモ以外に遺されているものは何もねぇ。おれ達は、フリーンの「手がかりを見付けたらすぐ戻ってこい」という話を思い出し、ひとまずは糸で地上に戻ることにしたのだった。

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