某月某日:テッシェ記す
メインの探索班が先に進むのと交代で、残りのアタイ達は、別のことをすることにした。
ナニって、クエストさ。
タンブリンバーっていう酒場の、なんでか女言葉をしゃべくるマスターが、駐屯地での依頼を取りまとめているわけさ。
なにしろ、アタイ達も探索費用に苦労してる。そんなアタイ達にとっちゃ、金か道具をもらえる依頼はとてもありがたい。もちろん依頼主も問題が解決できてありがたいはずさ。このあたり、持ちつ持たれつってヤツさね。
メインで進まない四人――アタイ、ラプシーちゃん、レクタ、ナユ坊――に、どうしても必要な回復役のチャリアちゃんを加「待たれい!」
「ナニよ、ナユ坊」
「その『ナユ坊』である! なぜ拙者が、そのような呼ばれ方をされねばならぬのだ!」
「……自分の武器を海に落っことしちゃうようなドアホウは、『坊』呼ばわりで充分」
「ぐ……」
ああ、話が中断しちゃったね。
とにかく五人で、クエストを受けたり、あとは採集作業をするレクタの護衛やったり、まぁつまり大事な裏作業をやるんだわ。……『裏』ったって、怪しいって意味じゃないからね、一応言っとくけど。
こういう仕事を通じて、アタイ達も樹海に慣れていく。センセー――あ、フィプトセンセーね――やアンシャルが言うには、今はメインの探索班じゃなくても、いつかその力を必要とするときが来るかもしれないから、できる限り鍛えておいてほしい、って話だった。
で、こうして改めて依頼を見てると、ホント、この駐屯地って、ないないづくしだね。
鍛冶屋のポタスじいちゃんは武具の材料が足りないっていう。食料調達班は、海がまだ荒れてて『王国』の船が来ないせいで、食料が足りないっていう。薬餌院のミューズセンセーは、負傷する調査団員が多くて薬が足りないっていう。
まぁ、孤立している場所だ、当然かもしれないか。
ここはしょうがない、アタイ達が一肌脱ぐしかないね。
そんなこんなで、アタイ達は、受けられそうな依頼を受けて立った。樹海の採集場で小さな花を摘んだり、蜜のかけらを集めたり。ネズミぶっ叩いて牙を集めたり。
で、頼まれごとを解決するたび、酒場のマスターは、大袈裟に「アタシが見込んだだけのことはある」とか、「すっごいわァ」とか、褒め称えてくる。
……でも、ちょっと、いいな。
アタイが今まで受けてきた『王命』ってのは、誰かに誉めてもらえる仕事じゃなかったから。
いや別に誉め言葉が欲しいってワケじゃないさ。アタイ達は命じられたことを遂行すること、それが全てだったんだ。だけどね、こうして、みんなに喜んでもらう様を直に見るのは、なんか、いいなぁ、って思っちゃったのさ。
このクエストってのを受けて立って、解決していくのは、まぁ危険な樹海に入るんだから楽じゃないけど、悪くないなぁって。
それも、あるひとつの依頼を受けるまでのことだったんだけどさ!
その依頼の主はお子様らしい。ラプシーちゃんみたいな子がいる以上、オチビちゃんの冒険者がいるのもおかしくはないとは思うんだけど、その依頼内容が問題だった。
「シンリンチョウを討伐して、複眼を10個集めてきて欲しい」
まあ、聞いた時点じゃ別におかしいとは思わなかったさ。でもね。
「根性足りないわ、アンタらッ!」
何時間か後、アタイはチョウの屍の前で、腹いせに鞭を振るってた。
このチョウの複眼ってヤツは、とんでもなく傷つきやすくて、ふつうに戦ってると『複眼?』って感じのものしか手に入らない。いえ、手に入るってより、見るからに残骸だから即廃棄処分って感じ。どれだけ傷つきやすいのよアンタらは! その羽程度の強靱さを備えてたらどうなのっ!
「テッシェ殿、チョウに八つ当たりしてもどうにもなら」
「やかましいわ、ナユ坊の分際で!」
「だから『ナユ坊』はよさぬか!」
ああ、チャリアちゃんやラプシーちゃんやレクタが白い目で見てる。……てより、彼女達も、複眼の手に入らなさにイヤになってる感じ。
なんだかんだいって、ひとつだけやっと、まともなのを手に入れたんだけど……。
……これを、あと九つ。どれだけチョウを相手すりゃいいのかねー?
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