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フォレストジェイル探索日記
世界樹の王オーダイン


9:緑ノ牢獄を突き進め!・4

某月某日:ラプシー記す
 探索班のみんなが地下一階の地図を仕上げて戻ってきたから、ボク達は分隊駐屯所に行ったの。
 ここの隊長さん、つまり、調査団を統括するのは、ヴァリさんっていう人。でも隊長さんはいろいろ忙しいから、フリーンおねえさんっていう人が、調査団のみんなに直接指示を出してる。
「あ、ようこそいらっしゃいました! 新しいギルドさ――って、ラプシーちゃん?」
「こんにちは、フリーンおねえさん」
 なんでボクがフリーンおねえさんのことを知ってるかっていうと、病気になって『王国』に帰らされたときに、お話ししたことがあるから。そのころのヴァリさんやフリーンおねえさんは、いずれ開拓団の護衛として新大陸に行く予定だったってことで、ボクに新大陸のことをいろいろ聞きたがってたんだ。ボクの病気が治り始めたときに、いろいろお話ししていたんだけど、そんなときに開拓団のみんながいなくなっちゃって、その調査のために新大陸に行っちゃったんだ。
「『オーダイン』の皆さんのことは、アスカさんから連絡受けてましたけど、ラプシーちゃんがいるとは思わなかったです! というより、樹海探索はすっごく、とっても、危険です! ラプシーちゃんは行っちゃいけません!」
「えー」
「えー、とか、うそー、とか、ないです。樹海には、とっても、ものすごく、怖い生き物が、たくさんどっさり出てくるです!」
「そうもいかんよ、駐屯所の」
 ふう、と溜息を吐きながら、口を出してきたのは、シャルおにいさん。
「吟遊詩人の力というものは侮れなくてな、いずれは必要となる。だが今はこの地に手の空いた吟遊詩人はおらんし、補充人員がいつ本国から来るかもわからん。ゆえに、この娘を、来る日に備えて少しずつ鍛えていくしか、我らに道はないわけだ」
「てめぇ、チャリアは仕方ねぇにしても、そのガキまで樹海に入れるってのか!?」
 ノクトさんが怖い顔で言い返した。チャリアおねえさんが言うには、ノクトさんはフリーンおねえさんみたいに、ボクが危ない目に遭うのを心配してるみたいなんだけど、やっぱり怖いよ。
 シャルおにいさんは、そんなノクトさんを怖がることもなく、話を続けたの。
「我らの間では十二歳はガキとは言えぬよ。私とて五歳の時には修行を始め、八つの頃には『仕事』をしていた」
「カースメーカーと他の連中を一緒にするんじゃねぇよ」
「同じだよ、聖騎士の。『力』を持ち、その『力』を自ら役立てたいと願う者に、年は関係ない。『大人』がそんな『ガキども』にやってやるべきことは、彼らが忌憚なく『力』を発揮できるように守ってやることだ。それとも聖騎士の、そなたは彼女を守ってやる自信がないのかね?」
「っ……」
 ノクトさんは声を詰まらせた。しばらくうなっていたけど、そのうちに大きなため息をついて、近くの壁を、だん、って叩いた。
「どいつもこいつも……そんなに樹海に行きてぇなら、勝手にしやがれ」
「……だそうだ、吟遊詩人の子よ」
 シャルお兄さんはボクの前にしゃがんで言った。
「だが、ノクトの思いも間違ってはいないのだ。お前達子供が危機にさらされるのは、私だって辛くないわけではない。『大人』が守るべき、と粋がったところで、そうもいかない時も多々ある。お前にとっては辛い経験になるかもしれぬ。その時に後悔するなとは言わぬが、後悔しても戻れないかもしれぬ。それでも、よいな?」
 シャルお兄さんの目にじっと見つめられて、ボクはちょっとだけ、やめようかな、って思ったの。でも、旅芸人仲間のみんながとても心配で、その気持ちは、樹海が怖くて辛いかも、っていう気持ちを、簡単に吹き飛ばしちゃうものだった。だからボクは、しっかりと頷いたんだ。
「大丈夫さ、きっとね」
 と、テッシェお姉さんがボクの肩をポンと叩いてくれた。
「アタイもシロカロちゃんも、レクタもチャリアちゃんもいるんだし、面倒は見てあげられるさ」
 ノクトさんは、ち、と舌打ちして、うなるようにこう言った。
「泣いても知らねぇぞ」って。

 そんなお話はともかくとして、フリーンおねえさんは、ボク達にお願い事をしてきた。
 初動調査、って言って、つまり、この駐屯地のまわりに、ちゃんと調査できてないところがあって危ないから、調べてこいってこと。
 それを聞いたテッシェおねえさんが、くすくす笑いながら、フリーンおねえさんの前に羊皮紙を出した。
「アタイ達『オーダイン』が、ギルド登録してから今までここに顔も出さず、何してたと思ってんのさ?」
 フリーンおねえさんは羊皮紙――一階の地図――を見て目を丸くして、それを持って奥の方に引っ込んでいった。しばらくしてから戻ってきて、こう言ったの。
「隊長いわく、実に完璧だ、です! 本当にお見事でした!」
 その言葉を聞いたノクトさんが、満足そうに、にやりって笑うのを、ボクはまともに見ちゃった。
 ボクの目に気が付いたノクトさんは、しかめっ面を作ったけど、今更遅いもんね。

 こうして、ボク達『オーダイン』の初仕事は、命令を聞く前に見事に終わったのでした。

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