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ハイ・ラガード世界樹冒険譚
苦難を越えるものウルスラグナ


第二階層『常緋ノ樹林』――見よ、かの魔人を!・8

 ハイ・ラガードの朝は早い。
 冒険者が訪れるような施設は、いつ彼らがやってきてもいいような態勢を整えているものだが、それを抜きにしても、太陽が上り始めた頃から街は動き出す。郊外の畑を管理する農民達が、日の出より前から畑に出て刈り取った作物を篭や荷車に積んで、市街の門が開くのを待っているのだ。必然的に、そういったものを迎える商店も早い。
 大公宮に向かう『昼の部』探索班の五人――エルナクハ、アベイ、ナジク、焔華、マルメリ――は、小さな荷車を一頭のロバに引かせる少年とすれ違いそうになった。その荷車の中には、驚いたことに、色とりどりのバラが満載されていた。思わず見とれる一同に、少年は得意げな笑みを浮かべ、バラに埋もれていた何本もの瓶の一本を取り上げ、差し出しながら口上を述べる。
「冒険者の兄ちゃん姉ちゃん達、毎日、獣の血や樹海の土にまみれて大変だろ。たまにはバラの香りをまとってみたらどうだい?」
「へぇ、薔薇水ねぇ」
 瓶を傾けて中身を少しだけ掌に取ったマルメリが、その香りを確認して感心したように声を上げる。
「ラガードじゃバラも売り物にしてたんし?」
「一番の旬は戌神ノ月から怒猪ノ月ぐらいだけとな」と少年は答える。晩春から初夏の頃だ。
「今は四季咲き品種の二番花が咲いて、そいつから精油や薔薇水が取れる。一番質がいいのは、戌神の頃に咲く一季咲きのヤツなんだけど、今のコイツも、悪くないと思うぜ」
 マルメリの手の上にこぼれた雫は、少年の言葉が嘘ではないことを、そのかぐわしい香りで証明している。
 少年の話によれば、精油はほとんどが大公宮や貴族が買い上げているらしい。そもそも庶民の手が届きにくい値が付くのだ。そのかわり、というわけでもないのだが、花弁から精油を精製する過程で生まれる薔薇水は、比較的安い値が付いている。それでも、庶民が衝動買いするには少々値が張るものだが。ちなみに、一緒に荷車に積んであるバラの花は、精油用とは別の品種で、花屋に卸す切り花、兼、荷車の飾りだそうである。
「お手軽なのがいい連中には、こっちだな」
 と少年は別の瓶を取り出す。その中に入っていた水は、薔薇水のような深い香りではないが、心が軽くなるようないい香りだ。この香り、どこかで嗅いだことがあるような気がするのだが。
「樹海の中に咲いてるっていう小さい白い花のだぜ」
「……ああ!」
 なるほど確かに、ネクタルがこのような香りを放っていた。今目の前にある香水のものより、ずっと強い香りだったが。
「兄ちゃん達みたいな冒険者が増えて、あの花の精油を使った薬もたくさんいるからって、おれの家に精製する仕事が持ち込まれてるんだよ。こいつは、そのときの副産物。お手軽な値段つけられるから、庶民の奥さん達が買ってくれる。おれ達にとっても儲けが増えて万々歳だぜ」
「そうか、薬の材料をか。はは、言ってみりゃ、オマエらもオレらの生命の恩人ってことだな」
「生命の恩人って思ってくれるなら、恩返しのつもりで薔薇水の一本でも買ってくれよ」
 少年の切り返しに、エルナクハは苦笑した。
 結局、ナジクは興味を示さなかったものの、他の全員が少年から薔薇水を買い上げた。女性達は言わずともがな、アベイは薬学研究に役立てるらしい。エルナクハは妻の土産にするつもりだった。おまけ、ということで、拳の中に隠れてしまいそうに小さな瓶に入った、バラの精油ももらい受けた。いわゆる香りのサンプルで、大公宮で確認のために開封し、中身は半分ほどに減っているのだが、ちゃんとした未開封商品だったら冒険者達が買った薔薇水四本以上の価値はあるらしい。
 冒険者は薔薇水売りの少年と別れを交わし、改めて大公宮へと足を向けた。

 按察大臣は謁見の間に踏み込むなり、小首を傾げて、すんすんと鼻を鳴らした。漂う香りの大元を見いだすと、ほっほっほ、と笑い声を上げ、そちら――訪ねてきた『ウルスラグナ』に近付く。
「ご足労感謝する。よく参られた。――それにしてもこの香り、どこぞの貴族が参られたかと思うたぞ」
「はは、途中で成り行きで薔薇水買ったからな、ちょっと付けてみた」
 とエルナクハは悪戯っぽく笑う。正確に言うなら、付けたのは、精油を薔薇水で希釈したものである。ちなみに薔薇水は、アベイが買った物を開封したものだ。
「まぁ、樹海に入ったら、すぐ土と獣の匂いに消されちまうんだろうけどよ。で、オレらに用事ってなんだ、何でも屋さん大臣サンよ」
「うむ」
 聖騎士の促しに、大臣は頷くと、口を開いた。
「そなたら、樹海の七階まで足を踏み入れたそうじゃな」
 冒険者達は一斉に頷く。事実である。八階へ通じる階段はまだ先だろうが、厳しかった魔物の猛攻に対処することも、どうにかできるようになってきていた。
「ふむ、それはよきかな。そなたらもさらなる力を付けてきておるようで、頼もしいことこの上ない」
 『ウルスラグナ』の反応に、大臣は満足げに頷き返すと、不意に声を潜める。
 好々爺の表情が、この時ばかりは、国家の安寧を図るべく務める厳格な古老のものに変わっていた。その表情に気圧され、エルナクハすらも思わず口調を改めた。
「いかが、なされましたか、按察大臣閣下」
「あらかじめ申しておく――」
 ぴんと張った弦から響く低音のような声が、有無を言わさぬとばかりに冒険者達に投げかけられる。
「これは、ごく一部の冒険者にしか話しておらん話、公国の秘事と思ってほしい」
「む……そいつぁ、随分と重いな、大臣サンよ」
 エルナクハは元の口調を取り戻した。否、普段通りの平静を装うしかなかった、という方が正しい。
 冒険者なるものは、本来、国の裏側だの陰謀だのとは無縁の存在だ。正確に言えば、そうあるべきだ、とエルナクハが思っているだけだが。そういった裏ごとに巻き込まれた者が、無事で済んだ試しがない(と勝手に思っている)。
 事実、『ウルスラグナ』はエトリア迷宮の真実に近付きすぎたために消されかけたことがある。だから按察大臣の口調に警戒し、その真意を汲もうと神経をめぐらせた。もしも彌危やばい話だったら、自分はギルドマスターとして仲間を護らなくてはならない。いくら鍛錬を積んでも、竜すら倒せるほどの強さを得ても、抗いがたい、『人間の意志』という魔物の牙から。
「そんなに強ばるでない。そなたが思っているような話ではないわ」
 大臣は目の前の聖騎士をなだめるように口を開く。平素なら「そなたらでも腰が引けるということがあるのじゃのう」と、軽口混じりに言ったであろう大臣の、真面目な受け答えが、事の重大さを却って引き立てる。しかし、冒険者の手に負えない話ではない、というのは事実のようだった。エルナクハは肩の力を抜いた。彼の態度に影響を受けて強ばっていた仲間達が、聞こえるかどうかというほどに静かに溜息を吐いたのを、背後に聞いた。
 冒険者達が落ち着いたのを確認すると、大臣は続きを口にする。
「この公国が世界樹の迷宮探索を進めておる理由は、当然、空飛ぶ城を見つける為。我らが父祖の根元を知るためじゃ。しかし、実はもう一つ、もっと切実な訳がある」
 次の言葉が発せられるまでには、少々の間が空いた。
「それは……大公さまご自身の為なのじゃ」
「大公自身の?」
 大公、すなわちハイ・ラガードの支配者である。冒険者達は一度も会ったことはないが、迷宮探索に冒険者の力を借りる――ないし『利用する』と決めた上で、その待遇や対価をきちんと整備している。それで充分。
 一国の支配者が、そこまでして『夢物語』を追うのは、現実的な計算もきちんと行っての決断だろう。事実、世界樹の迷宮という呼び水に集った冒険者達は、いろいろな意味で国を潤わせている。弊害対策をきちんと行えば、国力を飛躍的に伸ばすことになるはずだ。
 根元(つまり歴史)の探求、国力増強――それらは『国』のため。しかし、他にも大公自身に関する理由があるというのか。
「聡明な大公さまじゃが……、実は、重い病に侵されておる」
「……!」
 冒険者達は瞠目した。そんな話、ハイ・ラガード人のフィプトからも聞いたことはない。
 本当に、秘事なのだ。限られた者しか事実を知らず、大半の国民は、大公の息災を信じて、あるいは大公のことなど気にも留めずに生活を営んでいる。しかし、国家元首の病臥は、時にはそのような平穏を破壊する種となりかねない。病人自身がどうというわけではない。その機に乗じて何かしらを企む輩がいるかもしれぬ、ということだ。
「……そなたらが考えているようなことの真偽は、敢えて言うまい。それこそ、『真』であったら、そなたが心配したようなことに巻き込んでしまいかねんわ」
 そう述べる大臣の瞳の中に誠実さを読みとり、エルナクハはひとまず安堵した。とはいえ、自分達が直に巻き込まれないにしても、知らぬ振りを続けていられないのも事実だ。現大公に何かがあり、別の者がその座に着いたら、政策を一転させ、冒険者を追い出しに掛かる、という可能性も否定できない。それは面白くない話だ。
 もちろん、自分達にできることがなければ、指をくわえているしかあるまい。だが、冒険者として何か成せることがあると見込んだからこそ、大臣は自分達を大公宮に呼んだのだろう。
「病状は、どんなんだ?」
「今は、さほどではない。時折の発作を除けばの。しかし、多くの治療士や巫医に頼ったのじゃが、みな、サジを投げてしもうた」
「ツキモリ先生は?」
「同様じゃ。彼の者の師のキタザキ医師を呼んだこともあるが、完治には至らなかった。といっても、かの医師が病状を大幅に抑えてくれたのが、今の状態じゃ。いずれはまた病状も進むじゃろう、という話じゃが、さすがは『医神』、現状でもまことにありがたいことじゃよ」
 かの『エトリアの医神』でも、大公の病を完全に叩き伏せることはできなかったのか。
 冒険者の無言の驚きに、大臣は眉根を寄せて頷き答えると、話を続ける。
「そして……そんな大公さまを見て心を痛めておられるのが、まだお若い公女さまじゃ。樹海探索は、公女さまが大公さまの病を治すために、推し進められたものなのじゃよ。無論、樹海の力を国力と成すべく開拓する、ということも、嘘ではないがの」
「……それ、ちょっと変じゃないか?」
 アベイが疑問を呈した。
 樹海探索に裏の事情があったというのは、別にどうでもいいことだ。手ひどく裏切られたわけでもない。ただ、不可解な点がある。『医神』キタザキにすら根絶できない病、それを、どういう思考を経て、樹海探索を行えば治せるという結論に至ったのか。もちろん、樹海産の素材には、不治の病に対抗できる未知の薬剤の原料となりえるものがあるかもしれない。だが、一国の主の生命を賭けるには、あまりにもか細い希望ではあるまいか。
 大公が、国力増強のための探索のついでに、その存在を期待する、というのなら、まだわかる。しかし、今の話からすれば、探索の提唱者は公女で、しかも、病の治療手段を求めるという理由が先である。
 ……ひょっとして、公女は、樹海の中に求める素材があると『知っていた』?
「この公国は、数百年前に、一人の女王によって建国されたものじゃ」
 冒険者達の疑問を読み取ったか、大臣は静かに語り始めた。
「天空の城より、人々を引き連れ、世界樹を伝い、降りてきた女王。その方は、素晴らしい知識をお持ちであった。その知識をもって、多くの病人を救ったと、伝承にはある。そして、その女王が遺した、多くの書物が、いまも公国王家には伝わっておる。公女さまはそれを目にされての」
「確かに古い伝承は知識の宝庫って言えるけどぉ」
 マルメリが肩をすくめながら割って入る。
「古すぎて、ウソかホントかもわからないこともあるわよぉ」
「確かにの。だがの、絶望の淵におられた公女さまが、その書物を唯一の希望としてすがるのも、仕方あるまい?」
 大臣の眼差しは、まるで、血の繋がった孫娘のことを語っているかのようであった。
「なにしろ公女さまは、幼い頃に母君を亡くされた。もう、父である大公さましか、ご家族はおられぬ。だから、否定はできなかったのじゃよ。剣を手に樹海に挑もうとする公女さまを止め、冒険者に望みを託しましょうぞ、と、説き伏せるのがやっとであったわ」
 力なく首を振りながら語ると、大臣は顔を上げ、真っ直ぐに冒険者達を見据えた。
「……すまぬのぅ、話が長くなった。そこで本題なのじゃが……」
「要は、その書物に書いてあった何かを、樹海の中から探して持ってこい、ってこったろ?」
「話が早うてありがたいわ」
 大臣は何度も頷くと、手にした杖の頭を、ぽんぽんと己の掌に軽く叩きつける。それはさながら、どこかの権威ある学会で、名にし負う賢者が、多数の弟子を前に講義を始める時、注目を誘うために行う動作のようだった。
「さて、件の書物には、万能の秘薬について記されておっての。その素材になるものに関しても記述があった。それが、樹海の第二階層で手に入るものであろう、という情報が、書物の解読班から伝えられた」
「解読?」
「古い言葉で書かれておるからの。以前より、解読作業がされておったのじゃよ。それはともかく」
 大臣は、じっと『ウルスラグナ』一同を見据えた。
「秘薬の素材を手に入れるために、そなたらの力を貸してはくれぬか?」
「いいぜ、大臣サンよ」
 一同を代表するエルナクハの返答は、あっさりしたものである。もとより昨日、衛士バイファーからの連絡を受けたときに、場合にもよるが依頼を断る理由もない、しっかり受けて、心証をよくしておこう、と考えたばかりだ。
「とんでもないヤツと戦え、とかいうのは難しいけどよ、できるとこまでは力を貸すぜ」
「すまぬのう。では早速、詳細を説明するとしよう」
 大臣は嬉しそうに頷くと、状況の説明を始める。
 建国の女王が遺した書物の、解読が済んだ箇所に曰く。
 ――あらゆる病を癒す秘薬あり。その名を『エリクシール』と名付く。其は、慈愛の主コリモスが、樹海の探査の過程において提唱し、知識あるものの手によって製法が確立されたものである。その薬の力によって、数多の者が病より救われたが、貴重なものであるがゆえに、使用には注意を払う必要がある。他の方法で治る者にまでその秘薬を使うならば、万一、他の治療法のない者が現れたときに、肝心の秘薬が底を突いている可能性もあるからである――。
「そのコリモスっていうのが、ハイ・ラガード建国の女王サマなのか?」
「わからぬ。少なくとも、史記に記された女王の名はそうではなかったが……通称、あるいは、コリモスの方が本名、ということもありうるからの……」
 さらに書物に曰く。
 ――秘薬の材料は、炎をまとう幻獣の羽毛である。その獣を、精霊の名にちなみ、『サラマンドラ』と名付く。かの獣は脱皮により成長を遂げるが、剥がれ落ちた皮には、鳥の羽毛のような毛羽が残されている。その羽毛には、幻獣サラマンドラのような不可思議な生命体を支える基礎となるエネルギーが残されており、それが、秘薬の素材として適する理由である――。
「サラマンドラ?」
 冒険者達は期せずして声を揃えた。
 この世界には、森羅万象に宿る生命である『精霊』の存在を信じる者がいる。
 それが実在するにせよ、そうでないにせよ、普通の者には確認できない。だが、力の象徴としての概念は広く知られ、精霊の力を宿したという触れ込みの武具も存在する。大抵、その正体は、付与錬金術によって炎や雷などの力を得た武具なのだが。
 『サラマンドラ』とは炎の精霊の名である。
 かの精霊の名にちなんで名付けられたという幻獣『サラマンドラ』。そんなものが第二階層にいるのだろうか。
「冒険者達を公募する前に、大公宮主導の探索があったことは、耳にしておるじゃろう」
 と大臣は話を続ける。
「その当時、樹海の八階に、恐るべき魔物が発見されたことがある。調査に出た衛士隊が何十も全滅し、協力してくれていた、当時最強と言っていい冒険者も、その姿を見るなり、手を出さぬ方が吉だと言うたほどの魔物じゃ。じゃが、書物の記録を参考にすると、どうやら、その魔物がサラマンドラらしい」
「そいつを倒して、羽毛を手に入れろ、てか?」
 エルナクハは眉根をひそめた。他人に倒せないから自分達も無理、などと思っていたら、冒険者はやっていけない。だが、当時最強の冒険者が『無理』と喝破したというのなら、一考するべきであろう。
 しかし大臣は首を振る。おぞましい話を聞いたかのように、こちらもまた眉根をひそめ、諫める口調で話を続けた。
「必要なのは脱皮した皮に残された羽毛じゃ。くれぐれも、魔物に手を出して、優秀な冒険者が一組消滅するような末路は迎えんでくれ」
「優秀な冒険者、といえば」
 仲間達とは違い、表面的には顔色ひとつ変えずに話を聞いていたナジクが、声を上げる。
「なぜ、この話を、『ウルスラグナ』に持ち込んだ? 他にも優秀な冒険者は何組もいると思うが」
「その者達には別の頼み事をしておる」
 大臣は渋ることなく答を返した。
「状況次第では、そなたたちにも同じことを頼むやもしれぬが、ともかく、そういう理由で、彼らの手は塞がっておる。残された者で、今回の任務を成功させる可能性が一番高そうなのが、そなたたちじゃよ」
「ふむ……」
 納得はしたのか、ナジクは引き下がった。
 大臣は懐から何かを取り出す。一瞬、報酬の先払いか、などとエルナクハは思ってしまったが、もちろんそんなことはない。取り出されたのは丸められた羊皮紙である。手渡されたそれを広げると、迷宮の地図のようなものが記してあった。いや、まさしく迷宮の地図に違いない。『ウルスラグナ』が行った覚えのない地形ではあったが。
「それは、件の調査を通じて明らかになった、サラマンドラの巣付近の地図じゃ」
「めずらしいな」
 大公宮から冒険者に地図が提供されることは、まずない。地図を作る役を担う冒険者達が、権威から渡された地図が完全だという先入観を抱いてしまい、まだ存在するかもしれない隠し通路などを見落とす、という可能性を極力防ぐためである。それが今、破られた。それだけ、事態は深刻だということか。
「先に言うておくが、その地図が地図として完璧だという証明はできぬ。それでも、サラマンドラとの戦いを避ける一助にはなるじゃろう。その地図も使って、どうか、この老体や公女さまのために、頑張ってくれぬか?」
「……いいぜ」
 エルナクハはしばらく沈黙していたが、腹を決めたかの様相で口を開いた。
「他でもない大臣サンが、オレらを買ってくれてるんだ。突き放すわけにゃいかねえな」
「ありがたい、よろしく頼む」
 大臣の言葉に、軽く頷いて了承の意を示すと、『ウルスラグナ』一同は大公宮を後にした。

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