拝啓、エトリア執政院正聖騎士様
他人行儀な呼び方で始めるなって? はは、たまにはいいでしょ?
まだ、この間のお返事は届いていないんだけど、ちょっと面白いことがあったので、手紙出してみます。
本日、ハイ・ラガード歴皇帝ノ月十日お昼頃、不肖、私たち『ウルスラグナ』は、世界樹の迷宮三階に到達しました!
私はエトリアの迷宮の探索序盤のことは知らないけど、あの時も、きっとみんな、こんな気分だったんだろうね。楽しいけど苦しい、だけど、みんなで力を合わせて、新しい場所に足を踏み込んだ時の達成感ときたら! 冒険者って、ちょっとヘマしたら死んじゃいかねないのに、それでもなりたいって人が多いのも、判る気がする。……ま、私も、そのクチなんだけどね。
そうそう、面白いことって、そこじゃないの。
迷宮に挑む冒険者の中に、聖騎士さんがいたのよ。
聖騎士なんて、けっこう多くのギルドにいる、って? そうじゃなくて。
狼みたいな生き物を連れてたの。それも、結構賢い子。
エトリアにも冒険者はたくさんいたけれど、動物を相棒にして迷宮を踏破しようとしてる人は、いなかった。でも、その人は、その子と二人だけで、迷宮を進もうとしているみたい。初めは、他に仲間の人がいるんだと思ってたんだけど……街に戻ってから、いろいろと人の話を訊いてみたら、もともと、その聖騎士さんと、動物ばかりのギルドだったみたいなの。
すごいよね、昔、アナタやシャルと一緒に見た、旅芸人の動物芸もすごかったのは確か。けど、樹海の探索で動物達と一緒に戦うのが、芸とは別の次元の話なんだろうってのは、樹海探索の経験があるアナタや私たちなら判る気がする。互いに言葉じゃ言い表せない絆……いいえ、大仰な言い方をすれば、魂の奥底が繋がってなきゃ、無理だと思う。
ただ、心配なのは、今が二人だけってこと。
噂だと、樹海の中で仲間をほとんど亡くしちゃったっていうんだけど、新しい仲間を入れるつもりもないみたいで、二人だけで探索を続けるみたい。第二階層まで到達しているんじゃないか、って話だけど、二人だけであの迷宮を踏破するのはとても大変だと思う。だから、第一階層に戻って、鍛錬しなおしているんじゃないか、って、ナジクにいさんは言ってたけど……。
あはは、なんか、フロースガルさんの話ばっかりになってる。あ、フロースガルさんってのが、その聖騎士さんの名前。ま、ちょっと面白いことがあって、っていう主題で手紙書いてるんだから当たり前かな。
あと、やっぱり聖騎士さんだから気になるのかな、アナタと同じ。おねーちゃんはいつもアナタのことを心配してるんだぞ。
今回はイレギュラーなお手紙だから、こんなところで。
あ、そうそう、エルにいさんがアナタに頼み事があるって言ってた。同封したお手紙がそれ。エトリアもいろいろあって難しいかもしれないけど、できたら、お願い聞いてあげてくれないかな。
じゃ、次のお手紙は、前のお手紙のお返事が来たら出すから。よろしく!
冒険者ギルド『ウルスラグナ』
ナギ・クード・パラサテナ
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